2022年1月、共通テストの会場だった東大で刺傷事件が発生しました。
その犯人は、東海高校に通う17歳の少年。
今回は、この少年の生い立ちについてまとめました。
東大刃物切りつけ刺傷(殺傷)事件犯人・少年Aの生い立ち
少年は岐阜県の山奥の村出身。
少年の祖父は農協に勤めていた地元の名士。
少年の父は愛知県内の私立大学を卒業後、母校に就職し、現在は事務局で大学の運営などに携わっているそうです。
4兄妹の長男で心優しい少年
2004年6月、長男として生まれ、2歳下の次男、長女、次女と4人兄妹でした。
名古屋市名東区で育った少年。
周囲からは、仲睦まじい家族のように映っていたそうです。
一四年八月には和歌山県の那智の滝や、日本百景の一つとして名高い三重県熊野市の鬼ヶ城に家族で旅行に出掛け、父は一家団らんの風景を多数、SNSにアップしている。
文春オンラインより引用
少年は穏やかで優しく、3人の兄妹の面倒をすごく見る子だったそう。
また、両親の子育て法は決して厳しいわけではなく、「東大に行け」など言うようなタイプではなかったようです。
中学時代は吹奏楽部に所属
少年は、中学時代、吹奏楽部に所属し、担当はクラリネットでした。
また、部活の大会にも出場するほど熱心に活動していたそう。
「二十八人いる吹奏楽部の中で、男子生徒はわずか二人。彼はその中でも積極的に輪に溶け込むような社交的な生徒でした。卒業式の時には、部活の同級生全員に感謝の手紙を渡すなど、心優しい一面があった」
文春オンラインより引用
一方で、好きな女の子への執着心を垣間見せたことも。
中学3年生の時、好きな女の子に年賀状を送るために住所をしつこく聞いて、女の子に引かれてフラれたこともあったそうです。
すでに「勉強」に固執していた
少年が本格的に勉強を始めたのは、小学校4、5年生の頃。
といいつつ、当時の勉強時間は1日3時間弱だったため、成績は平均よりやや上程度だったそうです。
しかし、中学2年生の時に心が折れたことがきっかけで態度を改め、上位に上りつめることができたと記しています。
〈特に二年生の時、大暴落を受け心が折れかけたことがあります。しかし、逆にそれがきっかけになり、後の学習態度や方法が一掃され、上位に追いつめることができました〉
〈これから先も「勉強」は続きます。しかしこれからも中学校で学んだ勉強の重要さ、苦しさ、楽しさを忘れず「勉強」をやり続けていきます〉
自分の失敗を許せないが故のリストカット
中学3年の秋には、完璧な自分でいれないことを理由にリストカット事件を起こしています。
国語の授業で古文の暗唱があった時のこと。
生徒1人ずつ立って披露し、途中で詰まらずに最後まで暗唱できれば、高評価が得られるという授業。
最前列の席に座ったAに順番が回ってくると、彼は立ち上がり、暗唱を始めた。前出のクラスメイトの脳裏には、その時のAの言動がいまだに焼き付いている。
「Aは途中で噛んでしまい、思うように発表できなかったんです。そして彼が席に座った直後、まわりの男子たちが『おいおい!』と騒ぎ始めた。何かと思って見に行ったら、Aが自分のカッターを取り出し、手首を切っていたのです」
文春オンラインより引用
授業中に突然リストカットを始めた少年、教師が「やめなさい!」と叫ぶと、我に返ったそう。
腕には鮮血が滲んでいたそうです。
その後も、自分の失敗を責めるようなことを呟いていました。
当時から、自分の理想と現実との乖離に苦しんでいたのかもしれませんね。
第一志望ではなかった東海高校
中学時代から「勉強」に固執していた少年。
2020年4月には、偏差値73の東海高校に進学します。
とても優秀だった少年ですが、彼にとっては不本意だったそう。
「彼は入学時、『開成高、西大和学園高、ラ・サール高を受験したんだけど、全部落ちて東海高しか受からなかった』と話していました。だから『大学では絶対、一番を目指す。日本一のところに行くんだ』と。
文春オンラインより引用
実は、少年の1学年上の中学の先輩が、それらの高校に全部受かった上で東海高校に入学。
先輩が高校1年生の時に学年1位の成績を収めていました。
その先輩と自分を比較していたそうです。
それ以降、少年の志望大学は、日本一の難関と言われる東大理三になっていきました。
東大理三のためにはなんでもできた
東大理三への進学を志望してからは、自身を追い詰めることに。
高校入学から5カ月後の8月28日には、中学時代の同級生に以下のようなLINEをしていました。
すべては理科三類のため
連盟よ、去らば
その後、急にグループLINEを退会し、音信不通に。
それ以降、実際に少年と会うこともなかったそうです。
また、高校入学後は少年は誰もが嫌がる「掃除係」を買って出ていました。
という目論見があったのだとか。
ただ、実際は、数学オリンピックや物理オリンピックの日本代表レベルにならないと、東大への推薦は取れず、掃除係では推薦は取れないそうです。
彼の理三への執着は凄まじく、他の学校には目もくれなかった。彼が一日の予定を書いたメモを見たことがあるのですが、家に帰ってから寝るまで、ぎっしりと科目ごとに勉強内容が書かれていた」(高校時代の同級生)
文春オンラインより引用
誰よりも勉強熱心で、お昼も弁当を食べながらイヤホンで授業の音声を聞き、分からないことがあれば、すぐに職員室で先生に質問していたという少年。
その甲斐あって、高1の1回目の実力考査で54位、2回目で15位という好成績を収め、学内に張り出されます。
高校2年生に進学すると、成績優秀者が属する『A群理系』のクラスに入ることに。
生徒会長への立候補
東海高校は、高校2年生で生徒会長を務めるのですが、少年は「学校の風紀を立て直す」というテーマを掲げて立候補しました。
従来、生徒会長に立候補するのは、学校の勝手知ったる「内来生」(中学からの内部進学者)ばかりだったので、「外来生」である少年が立候補することが珍しかったそうです。
「スマホ禁止」のスローガンを掲げたことで反発もあり、少年は生徒会長選に落選。
しかし、彼の存在は模範生として有名になることに。
生徒会主催の「ホームルーム講座」というイベントで「芦田愛菜さんの素晴らしさ」について講義したこともありました。
「彼はパワーポイントを使い、『とにかく芦田さんが好きなんだ!』とノリノリでプレゼンしていました。
その講義は木曜日の四時間目に、二週にわたって行われましたが、講堂には終始笑いが溢れていた。生徒会長選で生真面目な公約を披露してバッシングされたAが、一転して自分の趣味について語り尽くしたことで、校内の話題を攫(さら)っていました」(前出・同級生)文春オンラインより引用
しかし、一部の悪ノリした生徒から、芦田愛菜さんの二次性徴についての質問が出ます。
すると、それまで柔和な表情を浮かべていた少年の目の色が変わり、怒号を飛ばし始めたのだとか。
「僕の賢い遺伝子と、あなたの美貌の遺伝子が合わさった子を作りたいです」
生真面目で勉強一筋な少年。
彼に対して好意を寄せている少女の存在もありました。
「中学時代に同じ塾に通っていたB子です。二人は高校進学後、接点がなくなったのですが、彼女はAに対して、ずっと好意を持ち続けていました。でも、高校入学後のAは勉強一筋、東大一直線だったので、彼女に見向きもしなかった」
しかし、少女への態度は2021年6月頃に変化します。
少女に電話でいきなり、
と告げたそうです。
この時すでに少女は、少年に対しての恋愛感情はなく、いきなりの告白に『正直、気持ち悪い』と思ったようです。
次第に成績不振に
次第に成績も落ちていきます。
東海高校で東大理三に合格するのは、毎年1〜2人。
成績では上位5位以内に食い込むことが最低条件だったようですが、130位にまで脱落してしまいます。
2021年9月には、三者面談で「東大理三は無理」と宣告され、初めての挫折を味わうことに。
さらに11月、少年と同じ「外来生」が実力テストで総合1位を獲得。
さらに別の「外来生」も数学で断トツの一位に輝くという快挙を果たします。
そのことがきっかけで次第に少年は塞ぎ込むように。
2021年の年末、彼に好意を寄せていた少女を呼び出すと、
と、人目を憚らず大粒の涙を流したそうです。
相当ショックを受けたようで、『もう死にたくなる』と、ずっと切羽詰まった様子だったのだとか。
事件後、動機について以下のように語っています。
「東大理三合格はおそらく無理だ。それならば自殺する前に人を殺して、罪悪感を背負って切腹しよう」
「勉強」「成績」に囚われていた少年。
現実に打ちひしがれて、ついには「人を殺して自分も死ぬ」という思考になってしまいます。
今までの生い立ちを見ると、一回そう思い込んでしまうとそのまま突っ走るタイプ。
学歴が全てじゃないと諭したとしても、受け入れるのが難しかったのかもしれません。
そもそも、決して教育熱心だったとは言えないご家庭だったそう。
親からプレッシャーを受けている様子はなかったそうです。
高一の時は、自ら進んで家の近くの通信制の塾に通っていましたが、彼は親孝行で『塾で費用の負担をかけたくない』と言い、安いスタディサプリで勉強していました。家族仲は良かったと思います
まとめ
目指していた「東大理三」に到達できないと感じ、大きな挫折を味わった少年。
それまでの生い立ちを見ると、自分の理想が絶対で、それ以外は絶対に認めることのできないタイプだったのでしょう。
「自分は勉強ができる」という事実が、自己を肯定させる唯一の手段だったのかもしれません。
医者を目指していたはずなのに、他人に危害を加えてしまった。
「医者」ではなく「東大理三」という肩書きのためだったことがよくわかりますね。